はじめに
発達障害は、脳の機能や構造に関わる先天的な特性であり、個人の生活や社会適応に影響を与える状態を指します。単なる「困った行動」や「努力不足」ではなく、脳の働き方の違いによる個性の一つとして理解すべきです。本記事では、発達障害の特徴や種類、関連する脳の部位や機能について解説します。これらの知識は、当事者への適切な支援や社会全体の受容性を高めるために重要です。発達障害への理解を深め、多様性を尊重する社会づくりに貢献できることを願っています。
発達障害の特徴
- 障害自体は完治しない先天的なものです。
- 症状は通常、乳幼児期から小児期に現れます。
- 発症の明確な原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因を含む複数の要因が影響していると考えられています。
- 複数の障害が併存することがあり、知的障害を伴う場合もあります。
- 二次的な障害として、精神疾患や行動面の問題が併発することもあります
ASD(自閉スペクトラム症)は、発達障害の一種で、主に以下の特徴を持つ障害です:
ASDの基本特性
- 対人関係や社会的なやりとりの障害
- こだわり行動
主な特徴
- コミュニケーションがうまく取れない
- 人との関わりが苦手
- こだわりがある
- 場の空気を読むことが難しい
- 比喩や皮肉、相手の気持ちを理解することが困難
- 物の配置や順番への強い固執
- 興味や関心の極端な偏り
ASDは脳の機能障害によるものであり、親のしつけや育て方、本人の性格とは無関係です1。
診断と対応
ASDの診断は、以下の方法で行われます:
- 問診
- 行動観察
- 心理検査や知能検査
診断基準には、複数の状況での困難さ、日常生活への影響、6か月以上の継続などが含まれます
主な症状
- 不注意:忘れ物が多い、集中力が続かない、先延ばし癖がある
- 多動性:じっとしていられない、頻繁に動き回る
- 衝動性:順番待ちが苦手、思い付きで行動する
診断方法
ADHDの診断は、単一の検査ではなく、以下の方法を組み合わせて総合的に行われます
- 問診:生育歴、家族歴、日常生活の様子などの聞き取り
- 行動観察
- 心理検査:
- CAARS(Conners Adult ADHD Rating Scale)
- ADHD-RS
- Conners 3日本語版
- 知能検査・発達検査(補助的に使用):
- ウェクスラー式知能検査
- ビネー式知能検査
- 新版K式発達検査
重要なポイント
- ADHDの症状は他の発達障害や精神疾患でも見られることがあるため、慎重な診断が必要です2。
- 適切な環境調整や支援により、ADHDの特性による困難さは軽減できます。
- 早期発見・早期支援が重要で、専門医の診断を受けることが推奨されます。
ASDの歴史
- 1943年:レオ・カナーが「早期乳幼児自閉症」に関する論文を発表。
- 1944年:ハンス・アスペルガーが「アスペルガー症候群」について論文を発表。
- 1950年代~1960年代:心因説が主流。
- 1960年代~1970年代:言語・認知障害説(中枢神経系の器質的問題)へ移行。
- 1980年代:Wingによる三徴候とスペクトラムの概念が提唱される。
- 2013年:DSM-5で「自閉スペクトラム症」として統合される。
ADHDの歴史
- 1902年:StillがLancetに「道徳的統制の異常な欠如」に関する論文を発表。
- 20世紀前半:脳外傷の症状として認識される。
- 1968年:DSM-2で「多動」に注目。
- 1980年:DSM-3で「注意欠陥」にも着目。
- 2000年:DSM-4-TRで「成人のADHD」の情報が追加される。
- 2008年:「欠陥」から「欠如」への用語変更。
- 2010年:DSM-5で現在の「注意欠如多動症(ADHD)」の診断基準が確立。
両障害とも、時代とともに診断基準や理解が深まり、支援方法も進化してきました。現在では、脳機能の特性として捉えられ、環境調整や適切な支援の重要性が認識されています
脳の機能について
発達障害は、脳の特定の部位だけでなく、複数の部位や神経伝達回路の機能に関連しています。主に以下の脳の領域が関与していると考えられています:
- 前頭葉:情報の統合、推理、判断、行動のコントロール、感情のコントロールを担当。
- 頭頂葉:空間的情報の分析・処理、身体の動きの感知を行う。
- 側頭葉:聴覚情報の処理、言語理解、記憶に関与。
- 後頭葉:視覚情報の処理を担当。
- 海馬:記憶の中枢。
- 扁桃体:感情や情動の調整を行う。
発達障害は、これらの脳の部位や神経伝達回路がうまく機能していない状態です。
ただし、「できない」わけではなく、適切な支援や練習により、情報処理の仕方を改善したり、自分なりの対処法を見つけることで症状の改善が期待できます。
発達障害児によく見られる脳機能の特徴として、以下のようなものがあります
- 記憶の仕方に特徴がある(出来事をそのまま記憶し、整理が苦手)。
- 少しの変化に戸惑うことがある(情報処理の特異性)。
- 刺激の感じ方が異なる(感覚過敏や鈍麻)。
- 必要な情報の選別が苦手(注意の向け方の特異性)。
これらの特徴は、脳の各部位の機能や神経伝達回路の働きの違いによって生じると考えられています。
ASD-2Eについて
ASD-2Eは、自閉スペクトラム症(ASD)とギフテッド(高い知的能力や特定分野での才能)を併せ持つ状態を指します。この状態は「二重に特別」という意味の2E(Twice Exceptional)の一種です。ASD-2Eの特徴:
- 特定分野での優れた能力:
- 高い知的能力や創造性
- 特定の興味分野に関する深い知識
- ASDの特性:
- 社会的コミュニケーションの困難さ
- 限定的な興味や反復的な行動パターン
- 非同期的な発達:
- 能力の凸凹が顕著(例:言語能力は高いが、社会性は低い)
- 学習や生活上の課題:
- 得意分野と苦手分野の差が大きい
- 社会適応に困難を感じることがある
ASD-2Eの人々への支援には、その独特な特性を理解し、強みを伸ばしながら苦手な面をサポートする個別化されたアプローチが重要です。早期発見と適切な支援により、その潜在能力を最大限に発揮できる可能性が高まります
発達障害の特性を持っていたと考えられ る偉人
- アルバート・アインシュタイン:
- アスペルガー症候群の可能性
- 5歳までほとんど話すことができず、読み書きが苦手だった
- 数学以外のことにはあまり関心を示さなかった
- レオナルド・ダ・ヴィンチ:
- アスペルガー症候群の可能性
- 一つの物事に異常に執着し、集中し、没頭する性格
- トーマス・エジソン:
- ADHD(注意欠陥・多動性障害)の可能性
- 子供時代、授業中に質問攻めで中断させることがあった
- モーツァルト:
- ADHDとアスペルガー症候群の可能性
- 多動性や衝動性、特定のものへのこだわりが見られた
- 坂本龍馬:
- ADHDの可能性
- 遠慮がなく、人の話を聞かずに居眠りすることがあった
- 織田信長:
- アスペルガー症候群の可能性
- 自分の衝動を抑えられない問題児だったという記録がある
これらの偉人たちは、発達障害の特性を持ちながらも、その独特な感性や能力を活かして各分野で大きな功績を残しました。